相続不動産の共有名義を避けるべき理由とその解決策

親や親族の不動産を相続する際、「とりあえず共有名義にしておこう」と安易に決めてしまうケースが少なくありません。

確かに共有名義は、遺産分割の話し合いが難航している場合や、相続人全員が平等に権利を持つという点では公平に思えます。

しかし、共有名義の不動産は将来的に活用困難な状態に陥りやすく、次世代への相続でさらに複雑化し、結果として大きなトラブルの原因となることがあります。

実際、私たちの事務所に寄せられる相談の多くは「共有名義にした不動産が売却できない」「共有者の一人が行方不明で手続きができない」といった悩みです。

本記事では、2023年の民法改正や2024年4月からの相続登記義務化も踏まえ、共有名義のリスクと最新の解決策を司法書士の視点から徹底解説します。

相続不動産の問題で悩まれている方は、日本リーガル司法書士事務所の無料相談をご利用ください。

不動産共有とは?基本知識を解説

共有とは何か?法律上の定義と基本構造

不動産の「共有」とは、一つの不動産に対して複数の人が所有権を共同で持つ状態を指します。民法上は「所有権その他の財産権が数人の共有に属するときは、各共有者は、その持分に応じて、権利を有する」(民法第249条)と定められています。

共有状態では、各共有者は「持分(もちぶん)」という割合的な権利を持ち、この割合を「共有持分割合」と呼びます。例えば「2分の1」や「3分の1」といった分数で表現されます。

相続の場合、法定相続分に応じて持分が決まることが一般的です。配偶者と2人の子どもが相続すると、配偶者が2分の1(50%)、子どもたちがそれぞれ4分の1(25%)ずつの持分を持つことになります。

共有名義が発生する主なケース

共有名義になる状況は主に以下の3つのケースがあります。

相続による共有
  • 遺言がない場合、相続人全員が法定相続分で共有
  • 遺産分割協議がまとまらず「とりあえず共有」
  • 相続人間の公平性を重視した結果としての共有
購入時の共有
  • 夫婦や親子でのペアローンによる共同購入
  • 友人や知人との共同投資による購入
  • 複数事業者による共同事業のための購入
その他の共有
  • 私道や通路の共同利用目的での共有
  • 区分所有建物の共用部分
  • 贈与や遺贈による共有

相続の場合は特に注意が必要です。遺言書がない場合、法定相続分に従って自動的に共有状態になり、その後の遺産分割協議が難航すると共有状態が長期化してしまいます。

共有名義でできること・できないこと

不動産の共有者には、一定の権利が与えられると同時に、重要な制限も課されます。民法では共有物の利用・管理・処分について以下のように規定しています。

単独でできる行為
  • 自分の持分に応じた利用(居住など)
  • 保存行為(建物の必要最小限の修繕など)
  • 自分の持分のみの売却や担保設定
  • 共有物分割の請求
持分の過半数で決定できる行為(2023年民法改正後)
  • 共有物の管理に関する事項
  • 短期の賃貸借契約(建物は3年以内、土地は5年以内)
  • 管理者の選任・解任
共有者全員の同意が必要な行為
  • 不動産全体の売却
  • 不動産全体への抵当権設定
  • 長期の賃貸借契約
  • 大規模なリフォームや増改築(変更行為)

このように、共有名義では不動産の自由な活用が大きく制限されます。特に売却や大規模リフォームなど重要な決断には全員の同意が必要で、一人でも反対すれば実行できません。

共有持分の登記について

不動産を共有する場合、登記簿にもその持分割合が記載されます。登記簿の権利部(甲区)には、各共有者の氏名と持分割合が明記されます。

例えば、「Aが2分の1、Bが4分の1、Cが4分の1」というように記載され、それぞれの持分割合が公示されます。これにより、第三者も各共有者の権利内容を正確に知ることができます。

なお、2024年4月からは相続登記が義務化されたため、相続により不動産を取得した場合、3年以内に相続登記を行わないと10万円以下の過料の対象となる点にも注意が必要です。

共有状態のままにしておく危険性

共有状態は、初めは公平に見えても、将来的には大きなリスクを伴います。共有者間で意見が対立した場合、不動産の活用が事実上不可能になるケースも少なくありません。

また、共有者の一人が亡くなると、その持分は相続人に引き継がれ、さらに共有者の数が増えていきます。これにより権利関係が複雑化し、最終的には「所有者不明土地問題」につながる恐れもあります。

共有名義にするリスクとトラブル事例

活用・売却が困難になる

共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ、売却や賃貸、リフォームなどの処分ができません。これは民法の基本原則で、持分がどれだけ大きくても、他の共有者の同意なしに不動産全体を処分することはできません。

例えば、3人の相続人がそれぞれ3分の1ずつの持分を持つ場合、1人が売却を希望しても残り2人が反対すれば売却はできません。1人だけでも反対すれば実行不可能です。

意見が合わない場合は活用や売却が困難になり、資産価値の高い不動産が適切に利活用されずに放置される事態となってしまうケースが少なくありません。特に相続人間の関係性が悪化しているケースでは、合意形成が非常に難しくなります。

不動産が放置されるリスク

共有状態が長引くと、「誰も管理しない」という状況に陥りがちです。各共有者が「自分だけが負担するのは不公平だ」と考え、結果として誰も積極的に管理しなくなります。

不動産を維持するための固定資産税や都市計画税、管理費、修繕費などの維持費についても、持分割合に応じて負担するのが基本ですが、この負担割合に納得できない人が出てくるとトラブルになることも少なくありません。

放置された不動産は老朽化が進み、倒壊の危険性や近隣トラブルの原因になります。さらに空き家化すれば、防犯面のリスクも増大し、地域全体の問題になることもあります。

相続で共有者が増え複雑化

共有名義人が亡くなると、その持分は再度相続されます。例えば3人共有の場合、1人が亡くなり相続人が2人いれば、共有者は合計4人に増えてしまいます。

共有者が亡くなり、次の世代の相続人が複数人いた場合は、さらに共有者が増えることになります。共有名義の権利関係が複雑化していくと、不動産売却時などに共有者全員の合意が取れずにトラブルが発生するリスクが高くなります。

このように世代を重ねるごとに共有者の数が増え、持分も細分化されていきます。その結果、「誰が共有者なのかすら把握できない」状態になり、所有者不明土地問題へと発展します。

持分の勝手な売却によるトラブル

共有者は、自分の持分だけであれば、他の共有者の同意なしに第三者へ売却することが可能です。これが思わぬトラブルの原因になることがあります。

特に問題となるのが「共有持分買取業者」への売却です。持分を売却された結果、他の共有者は見知らぬ第三者と共有関係になり、その業者から不当な買取要求やプレッシャーを受けるケースもあります。

例えば、「4分の1の持分しか持っていないが、不動産全体の価格に近い金額で買取を要求する」といった行為が行われることもあり、大きな精神的負担になります。

実際のトラブル事例

共有名義の不動産で実際に発生したトラブル事例を紹介します。こうした事例はめずらしくなく、共有名義の危険性を示しています。

売却合意ができない事例 兄弟3人で共有相続した実家について、2人は売却を希望したが、1人が「思い出の家を手放したくない」と拒否。売却できないまま空き家となり、老朽化が進んで固定資産税の負担だけが続いた。
固定資産税の負担トラブル 5人の相続人で共有した土地について、代表者が立て替えていた固定資産税を他の共有者が支払わず、親族間の確執に発展。10年以上の未払いが発生し、最終的に裁判で解決することになった。
第三者への持分売却事例 相続した共有不動産について、経済的に困窮した共有者の一人が持分を業者に売却。その後、業者から残りの共有者に対して不当な価格での買取要求が続き、最終的に市場価格を大幅に上回る金額で解決することになった。

共有名義の精神的負担

共有名義のトラブルは、単なる財産問題にとどまらず、親族関係の悪化や長期にわたる精神的ストレスをもたらすことがあります。

共有名義での相続登記は、単に問題の先送りにしかならず、後々トラブルになるリスクが高いと言えます。一時的な解決策として選択しても、将来的には大きな問題を引き起こすことが少なくありません。

共有名義のトラブルは一度発生すると解決が非常に難しく、裁判所での解決を余儀なくされるケースも多いため、相続時点でしっかりとした対策を講じることが重要です。

「とりあえず共有」を避けるための方法

現物分割・代償分割・換価分割の選択肢

遺産分割を進める際、共有名義を避けるためには、3つの主要な分割方法を検討することが重要です。それぞれの方法には特徴があり、相続財産や相続人の状況に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。

現物分割
  • 複数の相続財産をそれぞれの相続人が単独取得する方法
  • 土地を分筆し、各相続人が単独所有者となる
  • 各財産の価値を評価し、相続分に応じて分ける
  • 分割できない財産がある場合は難しい
代償分割
  • 1人が不動産を取得し、他の相続人に現金で代償する方法
  • 不動産は分割せず、単独所有となる
  • 不動産の適正評価が必要
  • 代償金を用意できる相続人がいる場合に有効
換価分割
  • 不動産を売却して現金化し、相続人で分ける方法
  • 売却金額を相続分に応じて分配
  • 共有せずに金銭で公平に解決できる
  • 売却までに時間がかかる場合がある

相続した不動産を分割せず共有名義のままにすることは、結局のところ、他の共有者(相続人)との話し合いを先送りしているに過ぎません。将来的なトラブルを防ぐためにも、上記のいずれかの方法で解決することをおすすめします。

遺産分割協議の円滑な進め方

共有状態を避けるためには、相続人全員で行う遺産分割協議を円滑に進めることが重要です。以下のステップで進めることで、合意形成がスムーズになります。

  1. 相続財産の調査・把握:不動産評価額、預貯金、負債などを確認
  2. 法定相続分の確認:民法に基づく各相続人の取得割合を確認
  3. 各相続人の希望聴取:どの財産をどのように分けたいか確認
  4. 専門家を交えた話し合い:中立的な立場から助言を得る
  5. 遺産分割協議書の作成:合意内容を書面化し、実印で押印

特に不動産の評価については、複数の不動産会社から査定を取るなど、客観的な価値を把握することが大切です。これにより「自分だけ損をした」という不公平感を防ぎ、後々のトラブルを回避できます。

遺産分割協議がまとまらない場合の対処法

遺産分割協議で意見がまとまらず対立が続く場合は、家庭裁判所での調停・審判という選択肢があります。

調停では、専門知識を持った調停委員が間に入り、当事者間の合意形成をサポートします。当事者同士の直接対話が難しい場合でも、別々の部屋で話を聞くなど柔軟な対応が可能です。

調停でも合意に至らない場合は審判に移行し、裁判官が最終的な判断を下します。審判では、主に現物分割、代償分割、換価分割のいずれかの方法が選択されますが、可能な限り共有状態を避ける判断がなされる傾向にあります。

行方不明・認知症の相続人がいる場合

相続人の中に行方不明者認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合でも、適切な法的手続きを取ることで遺産分割を進めることができます。

行方不明者がいる場合
  • 不在者財産管理人選任の申立て(家庭裁判所)
  • 選任された管理人が本人に代わって協議に参加
  • 失踪宣告の検討(5年または7年の期間要件あり)
認知症など判断能力が不十分な相続人がいる場合
  • 成年後見人選任の申立て(家庭裁判所)
  • 選任された後見人が本人に代わって協議に参加
  • 本人の利益を守る立場で判断

これらの制度を活用することで、すべての相続人の合意が得られない状況でも、法的に有効な遺産分割が可能になります。ただし、手続きには専門的な知識が必要なため、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

遺言書の活用による共有防止

共有名義による相続トラブルを根本的に防ぐ最も効果的な方法は、被相続人(財産所有者)が生前に遺言書を作成しておくことです。

遺言書があれば、相続人同士の協議は原則として不要となり、遺言の内容に従って財産が分配されます。例えば「長男に土地、長女に預貯金」というように、財産ごとに取得者を明確に指定できます。

特に有効なのが公正証書遺言です。公証人の関与により法的に確実で、紛失や改ざんのリスクもなく、家庭裁判所での検認手続きも不要です。共有を避けるための事前対策として、ぜひ検討すべき方法といえます。

共有名義を解消する具体的な解決策

分筆登記による現物分割

共有名義を解消する方法として、まず検討したいのが分筆登記です。これは一つの土地を物理的に分割して、それぞれの共有者が単独所有できるようにする方法です。

分筆登記を行うには、まず測量士に依頼して土地の測量を行い、分筆図面を作成します。その後、法務局に分筆登記を申請し、新たに生じた土地ごとに所有権を登記します。

ただし、分筆後の土地が建築基準法上の接道義務(幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していること)を満たさない場合や、自治体の定める最低敷地面積を下回る場合は分筆できないことがあります。実行前に自治体や専門家に確認することが重要です。

持分売却による解消

共有者間で持分を売買することで、共有状態を解消する方法も有効です。例えば、3人で共有している場合、1人が他の2人の持分を買い取って単独所有者になるという形です。

共有者の持分を他の共有者に売却することで、名義を一つにまとめることが可能です。持分を買い取る場合は、時価に基づいた価格での売買契約を締結し、登記の変更を行います。

持分の売買価格は、不動産鑑定士の評価や不動産会社の査定を参考に決定するのが望ましいです。また、売買代金に対して印紙税がかかり、登記には登録免許税が発生します。手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。

共有物分割請求による解決

話し合いで解決できない場合は、共有物分割請求という法的手段があります。これは民法第256条に基づいて、共有者が共有関係の解消を求める権利です。

まずは家庭裁判所での調停で解決を試み、それでも合意に至らない場合は裁判(共有物分割訴訟)に移行します。裁判所は以下の方法のいずれかで判断を下します。

  1. 現物分割:不動産を物理的に分割して各共有者に割り当てる
  2. 代償分割:一部の共有者が単独所有し、他の共有者に代償金を支払う
  3. 競売分割:不動産を競売にかけ、売却代金を持分に応じて分配する

共有物分割訴訟では、共有者間で決定を得ることが困難であっても裁判所の判断で共有関係を解消できますが、手続上の負担は小さくありません。弁護士に依頼することが一般的で、解決までに1〜2年程度かかることもあります。

共有不動産の売却(換価分割)

すべての共有者が売却に合意できる場合は、不動産を売却して持分に応じて売却代金を分配する換価分割も有効な解決策です。

売却には全共有者の同意と協力が必要で、売買契約書への署名・捺印や登記手続きへの協力が求められます。実際の売却手続きは不動産会社に依頼するのが一般的です。

この方法のメリットは、共有状態を完全に解消でき、各共有者が現金を得られることです。ただし、不動産市場の状況によっては希望する価格で売却できない可能性もあるため、複数の不動産会社から査定を取るのがおすすめです。

持分放棄の検討

場合によっては、自分の持分を放棄するという選択肢もあります。持分放棄とは、自分の持分をなくし、所有権を放棄することです。

共有持分の放棄は共有者単独で自由に行なうことができ、放棄された持分はそのほかの共有者に帰属します。ただし、持分放棄には他の共有者の承諾は必要ありませんが、登記手続きには協力が必要です。

持分放棄を検討するケースとしては、遠方の土地で管理が困難、固定資産税の負担が重い、共有者間のトラブルから解放されたいなどの理由が考えられます。ただし、贈与税の対象となる可能性があるため、税理士に相談することをおすすめします。

持分交換や贈与による解決

複数の不動産を共有している場合は、持分交換という方法も検討できます。例えば、AとBが2つの不動産をそれぞれ2分の1ずつ共有している場合、Aが1つ目の不動産の全持分を取得し、Bが2つ目の不動産の全持分を取得するという方法です。

また、親族間では贈与による解決も考えられます。例えば、高齢の親が子に持分を贈与するケースです。ただし、贈与税が発生する可能性があるため、贈与税の基礎控除(年間110万円)を活用した計画的な贈与を検討すると良いでしょう。

交換や贈与による所有権の移転には、当事者間での契約書の作成と、法務局での登記手続きが必要です。特に贈与の場合は税務上の影響が大きいため、専門家への相談をおすすめします。

2023年民法改正による共有制度の見直し

民法改正の背景と目的

2023年4月1日に施行された民法改正は、所有者不明土地問題に対応するための重要な法改正です。特に共有不動産についての規定が大きく変わりました。

近年、所有者不明土地が増加し続けています。土地の所有者が不明であるときには、土地の利用や管理に支障が生じ、衛生や防犯に関して弊害が生じます。今般の民法改正は、この所有者不明土地という社会問題に対する対策として立法化されたものです。

従来の民法では共有者全員の同意が必要な事項が多く、一部の共有者が行方不明であったり非協力的だったりする場合、不動産の活用が事実上不可能な状態に陥っていました。改正法ではこうした状況を改善し、共有不動産の利用・管理・処分を円滑化することが目指されています。

共有物の管理に関する見直し

改正前の民法では、共有物の管理行為は共有持分の過半数で決定できるものの、その範囲が曖昧でした。改正法では管理行為の範囲を明確化し、以下のような変更が行われました。

持分の過半数で決定できる事項(拡大)
  • 共有物の管理に関する事項全般
  • 短期の賃貸借契約(建物は3年以内、土地は5年以内など)
  • 共有物管理者の選任・解任
共有者全員の同意が必要な事項(限定)
  • 共有物の変更行為(大規模リフォームなど)
  • 長期の賃貸借契約
  • 共有物全体の処分(売却など)

民法改正により、短期賃借権等の設定の範囲が明確化され、持分の過半数で決定できるようになりました。これにより、所在等不明共有者がいる場合でも、残りの共有者の持分が過半数に及べば管理についての決定ができるようになりました。

所在等不明共有者がいる場合の新制度

改正民法では、所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合の新たな制度が創設されました。これにより共有関係の解消が従来よりも容易になっています。

所在等不明共有者の持分取得制度
  • 裁判所の決定により、申立人が所在等不明共有者の持分を取得
  • 取得の対価は供託され、所在等不明共有者が現れた場合に対価を受け取れる
  • 共有関係をシンプルにすることで、不動産の活用を促進
所在等不明共有者の持分の譲渡権限付与制度
  • 裁判所の決定により、申立人が不動産全体を第三者に売却する権限を取得
  • 所在等不明共有者以外の全共有者が持分全部を譲渡することが条件
  • 第三者への譲渡を円滑に行えるようにする制度

これにより、共有地がこれまで以上に売却しやすくなるため、不動産業界においても追い風になると思われます。これまで行方不明の共有者がいると解決が困難だったケースでも、法的な解決策が用意されたことになります。

共有物分割に関する見直し

共有物分割について、これまで判例で認められていた方法が明文化され、より分かりやすくなりました。改正法では以下の分割方法が明記されています。

  1. 現物分割:共有物を物理的に分割する方法
  2. 代償分割:一部の共有者が単独所有し、他の共有者に金銭を支払う方法
  3. 競売分割:共有物を競売にかけ、売却代金を持分に応じて分配する方法

共有物の共有者はいつでも共有物の分割を請求することができます。従来、共有物分割のためのルールは民法には明文がなく、判例によって補われていましたが、改正により法的根拠が明確になりました。

相続土地国庫帰属制度の創設

民法改正と同時に、2023年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。これは、相続や遺贈で取得した土地を、一定の要件を満たす場合に国に引き渡せる制度です。

相続財産である土地が遠隔地にあるなどの場合には、相続人は土地に関心をもちません。のみならず、望まず土地を取得した所有者には負担感だけが残るため、土地を手放したいと考える人が増加しています。

ただし、建物や危険な工作物がある土地、土壌汚染がある土地、担保権が設定されている土地などは対象外となります。また申請時に審査手数料、承認後に10年分の土地管理費相当額の負担金が必要です。すべての土地が対象となるわけではない点に注意が必要です。

民法改正を活用した共有名義の解消

これらの改正を活用することで、これまで難しかった共有名義の解消がより現実的になりました。特に所在等不明共有者がいるケースでは、新設された制度を利用することを検討すべきです。

民法改正によるメリットには、売却や取り壊しが容易にできるようになり土地活用が円滑に進められる、管理不十分な土地の放置により隣地への悪影響がなくなる、所有者特定にかかる労力を削減できるなどがあげられます。

ただし、これらの制度を利用するには裁判所への申立てなど専門的な手続きが必要です。司法書士や弁護士などの専門家に相談し、最適な方法を選択することをおすすめします。

相続登記義務化の重要ポイント

相続登記義務化の概要と背景

2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これまで任意だった相続登記が法的義務となり、期限内に手続きを行わないと過料の対象となります。

相続登記は、2024年4月1日から義務化されました。相続人は、不動産を相続したことを知った日から3年以内に法務局に相続登記を申請する必要があります。相続人同士で話し合って不動産を取得した場合も、取得が決まった日から3年以内に申請が必要です。

この制度改正の背景には、所有者不明土地問題の深刻化があります。相続が発生しても登記されないまま放置される不動産が増え、社会問題となっていました。不動産の所有者情報を最新の状態に保つことで、土地の有効活用や管理の適正化を図ることが目的です。

相続登記の期限と罰則

相続登記義務化に伴い、以下のような期限と罰則が設けられました。

相続登記の期限
  • 不動産を相続したことを知った日から3年以内
  • 遺産分割で不動産を取得した場合は、分割成立日から3年以内
  • 2024年4月1日以前に相続した未登記不動産は2027年3月31日まで
罰則内容
  • 正当な理由なく期限内に相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料
  • 過料は行政上のペナルティであり、刑事罰ではない
  • 複数の相続人がいる場合、登記を怠った相続人全員が対象

具体的には、相続登記が義務化された2024年4月1日以降に不動産を相続した場合、その不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。たとえ過去の相続であっても、未登記の場合は手続きが必要です。

相続人申告登記制度について

相続登記の義務化に伴い、新たに「相続人申告登記」制度が創設されました。これは、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で本来の相続登記ができない場合の暫定的な措置です。

相続登記をする義務は免れる相続人申告登記制度が創設されました。この制度を利用すると、相続人であることを申告するだけで一時的に登記義務を果たしたことになります。ただし、最終的には本来の相続登記が必要です。

相続人申告登記は、遺産分割協議が長期化している場合や、多数の相続人がいて調整が難しい場合などに有効です。手続きは比較的簡易で、自分の戸籍謄本と被相続人の死亡が記載された戸籍謄本などの限られた書類で申請できます。

2024年4月以前の相続への適用

注意すべき点として、相続登記の義務化は、2024年4月1日より前に発生した相続にも適用される点が挙げられます。つまり、過去に相続したままで登記を放置している不動産も登記の義務があります。

2024年4月1日より前に相続が発生していた場合でも、施行日を起算点とし、そこから3年以内に相続登記を行う必要があります。これにより、過去の相続についても適切に対応しなければなりません。

具体的には、2024年4月1日以前に発生した相続については、2027年3月31日までに相続登記を完了させなければなりません。期限までに完了しない場合は、正当な理由がない限り過料の対象となります。

共有名義での相続登記の方法

相続登記義務化のもとで、共有名義の不動産を相続する場合の手続きについて解説します。

共有名義で家などの不動産を相続した場合であっても、単独名義で相続した場合と同様に相続登記は必要です。相続登記の申請を法務局することによって、亡くなった方から相続人に名義変更されます。

法定相続分で登記する場合
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
  • 相続人全員の戸籍謄本・住民票
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 相続関係説明図(相続人を特定する図表)
遺産分割協議で登記する場合
  • 上記の法定相続登記の書類に加えて
  • 遺産分割協議書(全相続人の実印押印)
  • 相続人全員の印鑑証明書

相続登記手続きは複雑で、特に共有名義の場合は関係者が多く煩雑になりがちです。手続きの円滑化のために、司法書士に依頼することをおすすめします。専門家に依頼することで、書類収集の負担軽減や手続きミスの防止につながります。

相続登記義務化で懸念される問題点

相続登記の義務化に伴い、以下のような問題点や懸念事項が指摘されています。

  • 多数の相続人がいる場合の戸籍収集の負担増大
  • 遠方の相続人との調整の難しさ
  • 相続人間の対立があるケースでの協力の困難さ
  • 相続登記費用の負担(特に価値の低い不動産の場合)
  • 相続登記の方法や義務化についての知識不足

特に問題となるのが、相続人のうち一部が非協力的な場合です。共有名義の不動産では全員の協力が必要となるため、一人でも非協力的な相続人がいると手続きが進まなくなります。このような場合は、早めに専門家に相談することが重要です。

また、法務省が調査した結果、約66%の方がよく知らない、全く知らないという回答でした。このことからも、相続登記の義務化により罰則を受ける可能性がある人が多数発生することが予想されます。義務化の周知がまだ十分ではないという問題もあります。

共有名義のまま放置すると直面する税務問題

固定資産税の負担と分担トラブル

共有名義の不動産をそのまま放置すると、毎年発生する固定資産税の負担問題が発生します。固定資産税は原則として持分割合に応じて負担するべきものですが、実務上は様々な問題が生じます。

実際には、固定資産税の納付書は、共有者のうち、代表者一人に届きます。その代表者が固定資産税を全額立て替えて支払うのが一般的です。しかし、他の共有者が自分の持分に応じた税金を代表者に支払わないケースも多く、トラブルの原因となります。

特に相続による共有の場合、相続人間の関係が悪化していると、固定資産税の分担について話し合いすらできない状況に陥ることもあります。この場合、未払いが続くと延滞金が発生し、最終的には差押えなどの滞納処分を受ける可能性もあります。

相続税の計算と持分評価

相続税の計算においては、共有名義の不動産の評価が重要なポイントとなります。一般的に、不動産の共有持分は単独所有の場合よりも評価額が低くなる傾向があります。

共有名義は税制上のメリットもありますが、デメリットも多くあります。例えば、持分評価には「持分割合の多寡に応じた減価」や「共有持分であることによる減価」を考慮できる場合がありますが、税務署との見解の相違から申告が否認されるリスクもあります。

また、共有状態が続くことで将来的な相続税の計算が複雑化し、二次相続、三次相続と続くごとに計算が困難になっていきます。特に共有者の一部が亡くなった場合、その持分の評価について専門家の判断が必要になります。

譲渡所得税の計算複雑化

共有不動産を売却する際には、譲渡所得税の計算が複雑になります。特に取得費(購入価格など)の算定が難しくなるケースが多いです。

相続で取得した不動産の場合、取得費は被相続人の取得価額を引き継ぐのが原則ですが、共有相続の場合は各相続人の持分割合に応じて計算する必要があります。また、相続税を支払っている場合は「取得費加算」の特例を適用できますが、これも持分割合に応じた複雑な計算が必要です。

さらに、居住用財産の3,000万円特別控除相続空き家の3,000万円特別控除といった特例を適用する場合も、共有持分が影響し、単独所有より有利なケースと不利なケースがあります。確定申告時のミスを防ぐためにも、税理士への相談をおすすめします。

贈与税と持分変動への注意

共有状態を解消するために持分の贈与や売買を行う場合は、贈与税や譲渡所得税に注意が必要です。

例えば、親族間で持分を贈与する場合、その時点での時価に基づいて贈与税が計算されます。贈与税の基礎控除は年間110万円なので、高額な不動産の持分贈与では大きな税負担が発生する可能性があります。

また、共有者間で持分を売買する場合も、適正な価格での取引が求められます。不当に安い価格での売買は、税務署から「贈与」と認定されるリスクがあります。特に親族間取引は税務調査の対象になりやすいため、不動産鑑定士による評価を取得するなどの対策が重要です。

相続時精算課税制度の活用

共有持分の整理を計画的に行うなら、相続時精算課税制度の活用も検討価値があります。この制度は、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与に適用できる制度です。

制度の特徴は、2,500万円までの贈与について贈与税が非課税になる点です。例えば、親が所有する共有持分を子に生前贈与しておくことで、将来の相続時の共有関係を回避できます。ただし、この贈与分は将来の相続税計算時に持ち戻されるため、相続税対策というよりも「共有関係解消のための制度活用」という位置づけになります。

制度活用には税理士などの専門家による総合的なアドバイスが必要です。特に不動産の評価額や将来の相続税の見込額なども考慮した上で判断すべきでしょう。

空き家特例と共有不動産

相続した空き家を売却する際には、一定の要件を満たせば「空き家の3,000万円特別控除」が適用できますが、共有名義の場合は注意点があります。

この特例は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが条件の一つですが、共有名義の場合、全員の合意形成に時間がかかり、特例適用の期限に間に合わないリスクがあります。また、特例適用には「相続直前まで被相続人が居住していた家屋であること」などの条件もあり、事前の確認が重要です。

共有者全員が合意して売却する場合でも、売却代金の分配方法や各自の譲渡所得税の申告など、細かな手続きが必要になります。特例適用を検討している場合は、早めに税理士や司法書士に相談することをおすすめします。

不動産共有は専門家への相談が安心

早めの相談がトラブル回避の鍵

共有名義の不動産に関する問題は、時間が経過するほど解決が難しくなります。早期の対応がトラブル回避の重要なポイントです。

特に2023年の民法改正や2024年4月からの相続登記義務化など、法律の改正によって新たな選択肢や義務が生まれています。こうした最新の法制度を活用するためにも、専門家への早めの相談が効果的です。

共有名義の問題が複雑化する前に、司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談することで、円滑な解決策を見いだせる可能性が高まります。「まだ大丈夫」と思って放置することが、最も危険な選択かもしれません。

司法書士ができる支援内容

司法書士は、不動産登記の専門家として、共有名義に関する様々なサポートを提供できます。具体的な支援内容は以下の通りです。

登記手続き
  • 相続登記や持分移転登記など各種登記申請
  • 分筆登記や合筆登記の手続き
  • 相続人申告登記など新制度に対応した登記
  • 所有者不明土地関連の特殊な登記手続き
法律相談・書類作成
  • 遺産分割協議書の作成サポート
  • 持分売買契約書や贈与契約書の作成
  • 相続関係説明図の作成
  • 共有物分割請求に関する法的アドバイス
調査・手続き代行
  • 相続人調査(戸籍収集と相続関係の確定)
  • 不在者の所在調査
  • 法務局や役所での各種手続き代行
  • 裁判所提出書類の作成援助

相続や共有名義に精通した司法書士は、単なる登記手続きだけでなく、トラブル予防や解決のための総合的なアドバイスも提供できます。特に複雑な共有関係の整理や所在不明共有者がいるケースでは、専門家の支援が不可欠です。

複数の専門家と連携する重要性

共有名義に関する問題は、法律、税務、不動産取引など多岐にわたります。そのため、一人の専門家だけでなく、複数の専門家が連携して対応することが理想的です。

  • 司法書士:登記手続きや法的アドバイス
  • 弁護士:共有物分割訴訟や法的紛争の解決
  • 税理士:贈与税や譲渡所得税などの税務対策
  • 不動産会社:物件評価や売却サポート
  • 土地家屋調査士:測量や境界確定

当事務所では、こうした専門家とのネットワークを活かし、お客様の状況に応じた最適なサポート体制を構築しています。一つの窓口から総合的な解決策を提案できることが、私たちの強みです。

相談時に準備すべき資料

司法書士などに相談する際は、以下の資料を準備しておくとスムーズです。すべてが揃っていなくても、まずは相談することが大切です。

不動産関係
  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 固定資産税評価証明書・納税通知書
  • 不動産の間取り図や測量図(あれば)
相続関係
  • 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺言書(ある場合)
  • 遺産分割協議書(作成済みの場合)
その他
  • 共有者全員の連絡先
  • 過去の相談記録や経緯がわかるメモ
  • 不動産売買契約書(取得経緯がわかるもの)

これらの資料は、相談の段階ですべてが必要というわけではありません。まずは現状を把握するために、お手元にある資料だけで相談することをおすすめします。専門家の指示に従って、必要な資料を順次集めていくことができます。

共有状態の早期解消をおすすめします

共有名義の不動産は、放置すればするほど問題が複雑化します。「複数の相続人で仲良く共有していける」という考えは危険で、将来的には必ずと言っていいほど何らかのトラブルを引き起こします。

特に相続による共有の場合、初期段階で解消しておくことが最も賢明な選択です。「兄弟姉妹で共有しているけれどどうすればよいかわからない」「共有名義を解消したい」などのお悩みがあれば、ぜひ日本リーガル司法書士事務所の無料相談をご利用ください。

当事務所では、相続登記や共有名義解消の手続きに精通した司法書士が、あなたの状況に応じた最適な解決策をご提案します。共有名義の問題を先送りにせず、今こそ専門家に相談して円満解決を目指しましょう。

日本リーガル司法書士事務所の代表司法書士 計良宏之

日本リーガル司法書士事務所

代表司法書士/計良 宏之

東京都荒川区東日暮里5-17-7 秋山ビル1階

東京司法書士会所属 第8484号
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員 第1201114号

日本リーガル司法書士事務所は、東京都荒川区東日暮里に事務所があり、日暮里駅から徒歩6分とアクセスが良いです。相続や不動産登記などの相談は無料で受け付けていますので、お気軽にご相談ください。

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