奨学金は債務整理できる?返済困難な場合の対処法と保証人への影響
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奨学金の返済が困難になると、将来への不安や焦りを感じることは自然なことです。令和2年時点での奨学金受給者のうち、延滞経験がある人は19.8%に上るという調査結果が出ており、あなたが同じ状況に陥っているとしても、決して珍しいことではありません。
しかし、返済を滞納し続けると、延滞金の発生や信用情報機関への事故情報登録、最悪の場合は財産の差し押さえといった深刻な事態に発展する可能性があります。そのような状況を避けるためには、早めの対策が重要です。
奨学金の返済に苦しんでいる方にとって、債務整理(任意整理、個人再生、自己破産)は一つの解決策となりえます。ただし、保証人への影響や将来的なデメリットも考慮する必要があります。また、日本学生支援機構が提供している救済制度を利用することで、債務整理をせずに状況を改善できる可能性もあります。
この記事では、司法書士の視点から、奨学金を債務整理する際の具体的な方法や注意点、保証人への影響、そして債務整理以外の救済措置について詳しく解説します。
■もくじ
奨学金が返せないとどうなるか
奨学金の返済が困難になったとき、多くの方は「一時的に支払いを止めてもどうにかなるのでは」と考えがちです。しかし、奨学金の延滞は様々なリスクをもたらします。まずは、奨学金を返済できない場合に起こりうる事態について確認しておきましょう。
延滞が始まると起こること
奨学金の返済を滞納すると、最初は日本学生支援機構から書面や電話での催促が来ます。この段階ではまだ深刻な問題にはなっていませんが、放置し続けると状況は徐々に悪化していきます。
延滞が3か月以上続くと、信用情報機関に延滞情報が登録されることになります。これはいわゆる「ブラックリスト入り」と呼ばれる状態で、新たな借入やクレジットカードの作成、携帯電話の分割払いなどの審査に悪影響を及ぼします。
また、延滞中は元金に加えて年率3〜5%程度の延滞金が日々増加していきます。これにより、返済総額は当初予定していた金額よりも膨らんでいってしまいます。
延滞から4か月目以降になると、債権回収会社(アルファ債権回収など)に回収が委託されることがあります。この段階になると、より厳しい取り立てを受ける可能性があります。
長期間延滞すると法的措置の対象に
延滞が9ヶ月程度続くと、残額一括請求となり、支払督促などの法的手続きが開始されるリスクが高まります。支払督促とは、裁判所から債務者に対して支払いを命じる手続きです。
支払督促が確定すると、最終的には給与や預金口座などの財産が差し押さえられる可能性もあります。差し押さえられると、給与の一部が強制的に徴収されたり、口座が凍結されて自由に使えなくなったりする事態を招きます。
支払督促が届いた場合でも、督促異議を提出して裁判所に出廷すれば、分割返済などの話し合いによる解決が可能です。しかし、書類を無視したり対応を放置したりすると、事態はさらに深刻化します。
保証人への影響
奨学金には、「人的保証」と「機関保証」の2種類の保証制度があります。あなたがどちらの保証制度を選択したかによって、延滞時の影響は異なります。
人的保証を選択している場合(親や親族が連帯保証人・保証人になっている場合)、延滞が続くとこれらの保証人にも請求が行われます。延滞が長期化すると、保証人である家族や親族に迷惑をかけることになります。
一方、機関保証(保証料を支払って保証会社が保証人となる制度)を選択している場合は、公益財団法人日本国際教育支援協会が保証機関となります。延滞が続くと、保証機関があなたの代わりに日本学生支援機構へ支払いを行い(代位弁済)、その後保証機関があなたに請求することになります。この場合も、債権回収会社を通じての取り立てや法的措置のリスクがあります。
早めの対応が重要
奨学金の返済が困難になった場合は、問題が深刻化する前に早めの対応が重要です。次章以降で説明する債務整理や日本学生支援機構の救済制度を利用することで、状況を改善できる可能性があります。
特に、支払いが厳しくなったと感じた時点で専門家に相談したり、日本学生支援機構に連絡したりすることで、より柔軟な対応が可能になります。延滞が長期化して法的措置が開始されると、選択肢が限られてしまいますので注意しましょう。
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奨学金の債務整理の種類と適切な選択
奨学金の返済が困難になった場合、債務整理という選択肢があります。債務整理には主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類がありますが、奨学金の場合はどの方法が適しているのでしょうか。それぞれの特徴と奨学金返済に適した方法について詳しく解説します。
任意整理は奨学金にほとんど効果がない
任意整理とは、債権者(お金を貸した側)と交渉して将来の利息をカットしたり、返済条件を見直したりする債務整理方法です。消費者金融やクレジットカードの借金では効果的ですが、奨学金の任意整理はほとんど意味がないと言えます。
その理由は、奨学金の金利が元々低い(年0.01〜3.0%程度)ため、将来利息をカットしても減額効果が小さいからです。加えて、日本学生支援機構は一般的に延滞金や利息のカットに応じないという実情があります。
任意整理のメリットとしては、裁判所を介さないため手続きが比較的簡単で家族にバレにくい点があります。また、交渉先を選べるので、奨学金以外の高金利の借金(消費者金融やクレジットカードなど)だけを任意整理することが可能です。
したがって、奨学金だけでなく他の高金利の借金も抱えている場合は、奨学金は対象から外し、他の借金だけを任意整理するという選択肢が有効となります。
個人再生で奨学金を5〜10分の1に減額できる可能性
個人再生は、裁判所に申立てを行い、借金を大幅に減額してもらう手続きです。奨学金を含む全ての借金を5分の1〜10分の1程度に減額できる可能性があります。減額後の借金は原則3年間(最長5年間)で分割返済していきます。
例えば、奨学金が500万円残っている場合、個人再生によって100万円程度に減額できる可能性があります。ただし、最低弁済額(最低限返済しなければならない金額)が100万円と定められているため、借金の総額が小さい場合は減額効果が限定的になることもあります。
個人再生のもう一つの大きなメリットは、「住宅ローン特則」を利用することで、住宅ローンの返済を続けながら他の借金を減額できる点です。持ち家を手放したくない場合には、この制度を利用する価値があります。
ただし、個人再生は手続きが複雑で時間がかかるほか、裁判所に申立てをするため官報に掲載されます。また、奨学金を個人再生した場合、減額された部分は保証人に請求されるリスクがあるため、保証人への影響も考慮する必要があります。
自己破産で奨学金を含む全ての借金を免除できる可能性
自己破産は、裁判所に申立てを行い、返済能力がないことを認めてもらうことで、借金の支払義務をなくす(免責を得る)手続きです。債務整理の中で最も強力な方法であり、奨学金を含む全ての借金をゼロにできる可能性があります。
自己破産は、借金の総額が大きく、返済の見込みが立たない場合に検討される選択肢です。個人再生でも返済が困難な場合や、特に残したい財産がない場合は、自己破産が適している可能性があります。
ただし、自己破産にはいくつかの大きなデメリットがあります。一定の財産(現金や預金、不動産、高価な家財など)は没収され、返済に充てられます。また、手続き中は一部の職業制限があり、信用情報機関にも事故情報が登録されます。
最も考慮すべき点は、奨学金の保証人への影響です。自己破産で奨学金の免責を受けた場合、その全額が保証人に請求されることになります。保証人に迷惑をかけたくない場合は、慎重に検討する必要があります。
奨学金の債務整理に適した方法の選び方
奨学金の債務整理方法を選ぶ際は、以下のポイントを考慮するとよいでしょう。
任意整理 | ・奨学金のみの場合はほとんど効果がない ・奨学金以外の高金利借金がある場合に有効 ・保証人への影響を避けたい場合に検討 |
---|---|
個人再生 | ・奨学金を含む借金を5〜10分の1に減額できる ・住宅など残したい財産がある場合に有効 ・保証人への影響が懸念材料(減額分が請求される) |
自己破産 | ・奨学金を含む全ての借金を免除できる可能性 ・特に残したい財産がない場合に有効 ・保証人への影響が最も大きい(全額が請求される) |
また、保証人の種類によっても適切な選択は変わってきます。
- 人的保証(親や親族が保証人)の場合:保証人への影響を考慮し、奨学金以外の債務だけを対象とした任意整理を検討するか、保証人の了承を得た上で個人再生や自己破産を検討
- 機関保証の場合:保証機関が介入するため、個人再生や自己破産を含めた選択肢を検討しやすい
いずれの方法を選ぶにしても、単独で判断するのではなく、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は個々の状況に応じた最適な解決策を提案してくれます。
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奨学金を債務整理した場合のデメリット
奨学金の返済が困難になったとき、債務整理は有効な解決策の一つですが、様々なデメリットも伴います。ここでは、債務整理の種類ごとに考えられるデメリットを詳しく解説します。債務整理を検討する際は、これらのデメリットを十分に理解した上で判断することが重要です。
任意整理のデメリット
任意整理は裁判所を介さず、比較的手続きが簡単な債務整理方法ですが、奨学金を任意整理した場合には以下のようなデメリットがあります。
- 減額幅が非常に小さい(金利が低いため効果が限定的)
- 保証人への請求が行われる
- 信用情報機関に事故情報が登録される(いわゆるブラックリスト入り)
- 日本学生支援機構は利息カットにほとんど応じない
特に注意すべき点は、奨学金を任意整理しても保証人の返済義務は消えないということです。人的保証(親や親族が保証人になっている場合)では、奨学金の返済額は連帯保証人や保証人に請求されます。
機関保証の場合も、保証機関があなたの代わりに返済した後、保証機関からあなた本人に請求が行われます。そのため、奨学金の返済義務自体を逃れることはできません。
また、任意整理を行うと信用情報機関に事故情報が登録され、その後約5年間はローンやクレジットカードの審査に通りにくくなります。住宅ローンを組む予定がある場合や、新しいクレジットカードを作りたい場合は、この点も考慮する必要があります。
個人再生のデメリット
個人再生は借金を大幅に減額できる可能性がありますが、以下のようなデメリットも存在します。
- 官報に氏名や住所が掲載される
- 最低でも100万円は返済義務が残る
- 手続きに時間と費用がかかる(約4〜6ヶ月、費用は20〜40万円程度)
- 保証人に減額された金額分が請求される
- 信用情報機関に事故情報が登録される(約5〜10年間)
個人再生の大きなデメリットの一つは、保証人への影響です。例えば、奨学金が500万円あり、個人再生で100万円に減額された場合、減額された400万円分は保証人に請求されることになります。
これは、保証人にとって大きな負担となる可能性があります。保証人も返済が困難な場合は、保証人自身も債務整理を検討する必要が出てくるかもしれません。
また、個人再生は最低弁済額が100万円と定められているため、借金の総額が小さい場合は減額効果が限定的になることがあります。例えば奨学金の残債が150万円程度の場合、個人再生後も100万円は返済しなければならないため、あまり大きな減額にはなりません。
さらに、個人再生は裁判所を通じた手続きのため、官報(国が発行する公報)に氏名や住所が掲載されます。官報を日常的に確認する人は少ないものの、完全に秘密にはできないという点も考慮すべきです。
自己破産のデメリット
自己破産は借金をゼロにできる可能性がある強力な債務整理方法ですが、それに伴うデメリットも大きいものです。
- 官報に氏名や住所が掲載される
- 一定の財産が没収される(現金や預金、不動産、高価な家財など)
- 一定の職業に就けない期間がある(弁護士、司法書士、公認会計士など)
- 保証人に全額が請求される
- 信用情報機関に事故情報が登録される(約5〜10年間)
自己破産の最も大きなデメリットは、保証人への影響が最も大きい点です。あなたが免責を受けても、その効力は保証人には及びません。奨学金の全額が保証人に請求されることになるため、保証人との関係性にも影響が出る可能性があります。
また、自己破産すると一定の財産は換価処分(現金化して債権者への返済に充てること)の対象となります。持ち家や高価な車、貴金属、20万円を超える現金などは没収される可能性があります。ただし、日常生活に必要な家財道具や99万円以下の自動車などは手元に残せる場合があります。
さらに、自己破産中および免責決定後も一定期間は、弁護士や司法書士、警備員など一部の職業に就くことができません。現在これらの職業に就いている場合や、将来これらの職業を目指している場合は注意が必要です。
自己破産も裁判所を通じた手続きのため、個人再生と同様に官報に掲載されます。また、信用情報機関にも事故情報が登録されるため、数年間は新たな借入やクレジットカードの作成が難しくなります。
債務整理のデメリットを踏まえた判断
これらのデメリットを踏まえると、奨学金の債務整理を検討する際は以下のポイントに注意すると良いでしょう。
- 保証人への影響を最小限に抑えたい場合は、奨学金以外の債務のみを対象とした任意整理を検討する
- 持ち家など残したい財産がある場合は個人再生が適している
- 特に残したい財産がなく、借金額が大きい場合は自己破産が効果的だが、保証人への影響は最大
- いずれの方法も信用情報機関への登録は避けられないため、数年間はローンやクレジットカードの利用が制限される
債務整理にはそれぞれメリットとデメリットがあります。自分の状況に合った最適な方法を選ぶためには、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は個々の事情を考慮した上で、最適な解決策を提案してくれます。
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保証人への影響
奨学金の債務整理を検討する際、最も懸念されるのが保証人への影響です。奨学金制度では保証人の存在が重要な役割を果たしており、債務整理の方法によって保証人が負う責任は大きく異なります。ここでは、保証制度の種類と、債務整理が保証人に与える影響について詳しく解説します。
奨学金の保証制度の種類
日本学生支援機構の奨学金には、「人的保証」と「機関保証」の2種類の保証制度があります。あなたがどちらの保証制度を選択したかによって、債務整理の際の影響が異なります。
人的保証とは
人的保証とは、親族や知人などの個人が保証人となる制度です。具体的には、「連帯保証人」と「保証人」の2名が必要となります。連帯保証人は原則として父母(父母がいない場合は兄弟姉妹など)、保証人は原則として4親等以内の親族(おじ・おば、いとこなど)が担当します。
連帯保証人は奨学生(借主)と同等の返済義務を負い、奨学生が返済できない場合は、督促なしで返済義務が発生します。一方、保証人は連帯保証人が返済できない場合に返済義務が生じます。
機関保証とは
機関保証とは、公益財団法人日本国際教育支援協会が保証機関となり、個人の保証人を立てる代わりに保証料を支払う制度です。保証料は奨学金から天引きされるため、実質的に受け取る金額は減少しますが、家族や親族に保証人の負担をかけずに済みます。
機関保証を選択していると、あなたが返済できなくなった場合、保証機関が日本学生支援機構への返済を代行し(代位弁済)、その後保証機関があなたに請求することになります。
債務整理方法別の保証人への影響
ここからは、各債務整理方法が保証人に与える影響について具体的に見ていきましょう。
任意整理の場合
奨学金を任意整理した場合、保証人への影響は避けられません。任意整理では将来利息のカットや返済条件の変更を交渉しますが、元金についてはほとんど減額されません。
人的保証を選択している場合、あなたが返済を停止すると、日本学生支援機構は連帯保証人や保証人に対して請求を開始します。連帯保証人や保証人は奨学金の残額を返済する義務を負うことになります。
機関保証の場合は、保証機関が日本学生支援機構に代位弁済を行い、その後保証機関があなたに請求します。個人に迷惑をかけることはありませんが、保証機関からの取り立てや法的措置のリスクは残ります。
個人再生の場合
個人再生によって奨学金が減額された場合、減額された分は保証人に請求されることになります。
例えば、奨学金の残額が500万円あり、個人再生によって100万円に減額された場合、あなたは100万円を返済する義務がありますが、減額された400万円分は保証人に請求されることになります。
人的保証の場合、この400万円の返済義務は連帯保証人や保証人が負うことになります。一方、機関保証の場合は、保証機関が日本学生支援機構に400万円を支払い、その後保証機関があなたに請求することになります。
自己破産の場合
自己破産は債務整理の中で最も強力な方法ですが、保証人への影響も最も大きいものとなります。自己破産で奨学金の免責が認められた場合、奨学金の全額が保証人に請求されることになります。
人的保証の場合、奨学金の残額全てについて連帯保証人や保証人が返済義務を負います。奨学金の金額が大きい場合、これは保証人にとって非常に大きな負担となる可能性があります。
機関保証の場合も、保証機関が日本学生支援機構に全額を代位弁済し、その後あなたに請求することになりますが、免責決定によってあなたの返済義務はなくなります。ただし、免責後に収入が増えた場合などに、保証機関から和解金の支払いを求められる可能性はあります。
保証人に配慮した債務整理の選択
保証人への影響を考慮すると、奨学金の債務整理を検討する際は以下のポイントに注意すると良いでしょう。
- 人的保証を選択している場合、保証人に迷惑をかけたくないなら、奨学金以外の債務のみを対象とした任意整理を検討する
- 個人再生や自己破産を検討する場合は、事前に保証人に相談し、了承を得ることが望ましい
- 機関保証を選択している場合、個人への影響は少ないため、個人再生や自己破産も比較的選択しやすい
- 保証人自身も返済が困難な場合は、保証人も債務整理を検討する必要がある可能性
奨学金の債務整理を検討する際は、自分だけでなく保証人の状況も考慮することが重要です。保証人との関係性や保証人の経済状況も踏まえて、最適な方法を選択しましょう。どのような選択が最適か判断が難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
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債務整理以外の奨学金の救済措置
奨学金の返済が困難になった場合、すぐに債務整理を検討する前に、日本学生支援機構が提供している救済制度を活用する方法もあります。これらの制度を利用することで、一時的な経済的困難を乗り越え、債務整理をせずに奨学金の返済を続けられる可能性があります。ここでは、主な救済制度とその利用方法について解説します。
減額返還制度
減額返還制度は、経済的に困難な状況にある場合に、一定期間、毎月の返済額を減額して返済を続けることができる制度です。返済総額は変わりませんが、月々の負担を軽減できるため、一時的な収入減少時に役立ちます。
減額返還制度の概要
減額返還制度では、最長15年間(180ヶ月)、毎月の奨学金返済額を2分の1、3分の1、4分の1、または3分の2のいずれかに減額することができます。なお、4分の1と3分の2の選択肢は令和6年4月より追加されました。
ただし、月々の負担が減る分、返済期間は元の2〜4倍に延長されます。つまり、返済総額そのものは変わらず、長期間にわたって少額ずつ返済していくことになります。
利用条件
減額返還制度を利用するためには、原則として年間収入金額が400万円以下(年間所得金額300万円以下)であることが条件となります。また、以下のような事由がある場合に申請が可能です。
- 新卒等で収入が少ない
- 経済的に困難な状況にある
- 失業中である
申請には「スカラネット・パーソナル」というウェブサイトからオンラインで手続きを行うことができます。ただし、延滞中は減額返還制度を利用できないため、延滞している場合は、まず延滞を解消することが必要です。
返還期限猶予制度
返還期限猶予制度は、経済的理由や災害、傷病などにより奨学金の返済が困難になった場合に、一定期間返済を先送りにできる制度です。猶予期間中は返済の義務が一時的に停止されます。
返還期限猶予制度の種類
返還期限猶予制度には、以下の2種類があります。
1. 一般猶予
一般猶予は、経済的理由や傷病などにより奨学金の返済が困難になった場合に利用できる制度です。申請は1年ごとに行う必要がありますが、通算で最長10年(120ヶ月)まで利用可能です。猶予期間中は返済が免除されますが、元金や利息が免除されるわけではなく、猶予期間終了後に返済を再開することになります。
一般猶予の主な申請事由としては、以下のようなものがあります。
- 災害(令和6年能登半島地震など)に被災し返済が困難
- 新卒や退学者で無職・未就職により収入が少ない
- 傷病により就労が困難
- 生活保護を受給している
- 在学期間終了後1年以内で大学・大学院などに進学準備をしている
- 失業中(6ヶ月以内)かつ再就職ができておらず返済が困難
- 無職・未就職・低収入である
一般猶予の申請には、収入基準が設けられています。経済的困難を理由とする場合、給与所得者は年間収入金額300万円以下、給与所得以外の所得を含む場合は年間所得金額200万円以下が目安となります。また、傷病の場合は、給与所得者は年間収入金額200万円以下、給与所得以外の所得を含む場合は年間所得金額130万円以下が基準となります。
2. 猶予年限特例または所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予
この制度は、「猶予年限特例」または「所得連動返還型無利子奨学金」を受けた人のみが対象となります。奨学金の貸与終了後、一定の収入(給与所得者は年間収入金額300万円、給与所得以外の所得を含む場合は年間所得金額200万円)を得るまでの期間、返済期限を先延ばしにすることができます。
自分がこの制度の対象かどうかは、貸与開始時に渡された「奨学生証」または貸与終了時に渡された「貸与奨学金返還確認票」で確認できます。該当する場合、書類の右上に「猶予年限特例」または「所得連動返還型無利子奨学金」と印字されています。
所得連動返還型無利子奨学制度
所得連動返還型無利子奨学制度は、年収300万円を超えるまで、所得に応じて毎月の返済額が決まる制度です。所得が少なければ毎月の返済額も少なくなるため、就職後の収入に応じた返済が可能になります。
この制度の特徴は以下の通りです。
- 所得に応じて毎月の返済額が変動する
- 年収300万円を超えるまで、所得に応じた返済額となる
- 期間の制限はないが、返済自体が免除されるわけではない
- 第一種奨学金(無利子)のみが対象(大学院を除く)
ただし、この制度を利用できるのは、貸与を受ける際に選択した場合のみです。既に通常の返還方法で返済を始めている場合は、途中からこの制度に変更することはできません。
救済措置と債務整理の併用
奨学金の返済が困難な場合、上記の救済措置と債務整理を併用することも可能です。具体的には以下のような組み合わせが考えられます。
- 奨学金は減額返還や猶予制度のような救済措置を利用する
- その他の借金(消費者金融やクレジットカードなど)は任意整理で負担を減らす
このように救済措置と任意整理を組み合わせることで、奨学金を含む全体の返済負担を大きく減らせる可能性があります。また、保証人への影響も最小限に抑えられるというメリットもあります。
救済措置の活用ステップ
奨学金の返済が困難になった場合は、以下のステップで救済措置の活用を検討するとよいでしょう。
- 返済が困難になりそうだと感じたら、まずは早めに日本学生支援機構に相談する
- まずは減額返還制度の利用を検討し、それでも返済が困難な場合は返還期限猶予制度の利用を検討する
- 延滞している場合は、まず延滞を解消してから救済制度の申請を行う
- 救済措置を利用しても返済が困難な場合は、専門家に相談して債務整理を検討する
いずれの救済措置も、返済が困難になってから時間が経過すると利用しにくくなる傾向があります。返済が難しいと感じたら、早めに対応することが重要です。
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奨学金を債務整理したシミュレーション
ここでは、奨学金を含む借金を自己破産で解決したケースと、奨学金は除外して他の債務のみ任意整理したケースの2つのシミュレーションをご紹介します。
それぞれの状況や選択した理由、手続き後の生活の変化などを知ることで、あなた自身の判断材料にしていただければと思います。
自己破産で奨学金を含む800万円の借金をゼロにしたケース
まずは、奨学金を含む約800万円の借金を自己破産によって解決した40代男性の事例を見ていきましょう。
借金総額 | 約800万円 |
---|---|
うち奨学金の残債 | 約200万円 |
自己破産にかかった費用 | 約40万円 |
職業 | パート・アルバイト |
奨学金返済が困難になった経緯
この男性は大学時代に約400万円の奨学金を借り入れました。新卒で就職してからの5年間は、毎月1〜2万円程度を奨学金の返済に充てていましたが、途中で体を壊してしまい、以前のように働くことが難しくなりました。収入が減少する中でも返済を続けるため、消費者金融などから借り入れを重ねていましたが、次第に自転車操業状態となり、ついには返済が困難な状況に陥りました。
そのときの借金総額は約800万円で、そのうち奨学金の残債は約200万円でした。打開策を求めて法テラスに相談し、自己破産の手続きを進めることになりました。
自己破産の手続き
自己破産の手続きでは、まず借入先の一覧を作成し、カードや通帳を弁護士に提出するといった準備を行いました。裁判所への出頭も数回ありましたが、基本的には弁護士に一任することで手続きは進みました。
手続き開始から約8ヶ月後に免責が決定し、奨学金を含む全ての借金の支払義務がなくなりました。手続きにかかった費用は合計約40万円で、法テラスの立替制度を利用して月々5,000円(34回払い)で支払いました。ただし、予納金の20万円は立て替えてもらえなかったため、手元に残っていた資金で支払ったとのことです。
保証人への影響
自己破産によって奨学金の支払義務がなくなったため、残債約200万円の返済義務は保証人である家族に移りました。本人は家族と直接会っていないものの、家族が代わりに返済をしてくれたようです。このように、自己破産は本人の借金問題は解決しますが、保証人には大きな負担がかかることを示す事例といえます。
自己破産後の生活
自己破産後は、クレジットカードが作れなくなったため、デビットカードを使用するようになりました。また、借金を重ねた経験から浪費を控えるようになり、生活習慣にも変化があったようです。自己破産の経験を振り返り、「奨学金を借りたときにもう少し手元にお金を残せたと思うので、節制すればよかった」と反省しつつ、「借りないで済むのであればその方がよい」とアドバイスしています。
奨学金を除外して任意整理したケース
次に、奨学金は返済を継続しながら、他の借金のみを任意整理で解決した事例を見ていきましょう。
借金総額 | 約300万円(消費者金融・信販会社) |
---|---|
奨学金の残債 | 約300万円(毎月3万円返済) |
収入 | 手取り約23万円/月 |
家賃 | 7万円/月 |
債務が膨らんだ経緯
この男性は製薬会社に勤める営業職でした。5年間働く中で、契約を獲得するために自腹で接待をするようになり、次第に出費がかさむようになりました。足りない分はクレジットカードで決済し、リボ払いを利用するケースが増加。毎月の返済をしても、空いた枠でまた利用するという悪循環に陥りました。
そして、ボーナスの減額が発表されたことをきっかけに、これ以上の返済継続は困難と判断し、司法書士に相談することになりました。相談時点で信販会社や消費者金融への借金が合計約300万円あり、毎月の返済額は約10万円に達していました。また、日本学生支援機構の奨学金約300万円を毎月3万円返済していることも分かりました。
自己破産も検討したが保証人の存在が課題に
当初は自己破産も検討していましたが、奨学金の保証人として両親と親族(叔母)がついていることが大きな問題となりました。自己破産すれば本人は免責されても、奨学金の支払義務は全て保証人に移るため、保証人に迷惑をかけることになります。
自己破産では奨学金を除外して手続きすることはできないため、保証人に迷惑をかけたくないという思いから、奨学金以外の債務のみを任意整理する道を選択しました。
家計の見直しと奨学金の救済制度の活用
司法書士と相談しながら、消費者金融や信販会社からの借金を任意整理することで、毎月の返済額が約55,000円に減額できる見込みが立ちました。しかし、家賃や光熱費、通信費などの固定費に奨学金の返済額3万円を加えると、手元に残るのは約5万円となり、生活は厳しい状況でした。
そこで、以下の対策を講じました。
- 携帯電話を格安SIMに変更して毎月約1万円の支出を削減
- 奨学金の減額返済制度を利用して毎月の返済額を減額(約2万円の余裕が生まれた)
- 無理な自腹接待を控えるなど、生活習慣を見直し
特に奨学金の減額返済制度の利用が効果的でした。この制度は延滞していると利用できませんが、この男性は支払いを継続していたため利用が可能でした。
任意整理後の生活
任意整理の手続きが始まると、司法書士から債権者に対して受任通知が送られ、一時的に返済が停止されました。その間に司法書士への報酬を分割で支払いながら、返済再開に備えて資金を貯めることができました。
数ヶ月後に和解が成立し、予定通りの金額で返済が始まりました。返済額の減少と家計の見直しにより、以前よりも余裕のある生活を送れるようになったとのことです。
2つの事例から学ぶポイント
この2つの事例から、奨学金の債務整理を検討する際に重要ないくつかのポイントが見えてきます。
- 保証人の有無や関係性によって最適な債務整理方法は異なる
- 奨学金の返済が難しい場合は、減額返済制度などの救済措置も検討すべき
- 借金問題の解決には、債務整理だけでなく家計の見直しも重要
- 自己破産は保証人への影響が大きいため、慎重な判断が必要
- 早めに専門家に相談することで、より多くの選択肢が得られる
奨学金を含む借金問題は、一人で抱え込まず、専門家に相談することが解決への第一歩です。あなたの状況に最適な解決策を見つけるためにも、早めに行動することをおすすめします。
最短30秒!まずは気軽にチェック!
杉山事務所の無料減額診断
まとめ
奨学金の返済が困難になったとき、債務整理は一つの解決策となりますが、その方法によって大きく結果が異なります。この記事では、奨学金の債務整理について様々な角度から解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめておきましょう。
奨学金の債務整理を検討する際の重要ポイント
奨学金の返済に困っている場合、以下の点を考慮して対応策を選ぶことが重要です。
- 奨学金の返済が滞ると、信用情報への影響や最終的には財産の差し押さえなどのリスクがある
- 任意整理は奨学金にはほとんど効果がないが、他の高金利借金がある場合は有効
- 個人再生は奨学金を5〜10分の1に減額できる可能性があるが、保証人への影響は大きい
- 自己破産は奨学金を含む全ての借金を免除できる可能性があるが、保証人への影響は最大
- 人的保証(親や親族が保証人)の場合は、債務整理で減額・免除された分が保証人に請求される
- 機関保証の場合は、個人への影響は少ないため債務整理の選択肢が広がる
債務整理の前に検討すべき救済制度
奨学金の返済が困難になった場合、まずは日本学生支援機構の救済制度の利用を検討しましょう。
- 減額返還制度:最長15年間、毎月の返済額を2分の1、3分の1、4分の1、または3分の2に減額できる
- 返還期限猶予制度:最長10年間、返済を一時停止できる
- 所得連動返還型無利子奨学制度:収入に応じて返済額が決まる(第一種奨学金のみ対象)
これらの救済制度と任意整理を組み合わせることで、奨学金は返済を続けながら、他の高金利の借金だけを整理するという選択肢も考えられます。特に人的保証の場合は、保証人への影響を最小限に抑えるためにも、このような方法が有効かもしれません。
早めの相談が重要
奨学金の返済が困難になった場合、問題が深刻化する前に早めの対応が重要です。延滞が長期化すると、選択肢が限られてしまい、解決が難しくなる可能性があります。
まずは日本学生支援機構に相談し、救済制度の利用を検討しましょう。それでも解決が難しい場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は個々の状況に応じた最適な解決策を提案してくれます。
奨学金の返済問題は決して珍しいものではなく、多くの人が同じ悩みを抱えています。一人で抱え込まず、適切な支援を求めることが、解決への第一歩です。今回紹介した内容が、あなたの状況改善の参考になれば幸いです。
借金問題の解決には、様々な選択肢があります。あなたの状況に最適な方法を見つけるためにも、杉山事務所などのおすすめ事務所の無料相談をご利用ください。専門家のアドバイスを受けることで、より良い未来への一歩を踏み出せるはずです。
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