会社役員が自己破産すると委任契約はどうなる?地位喪失のタイミングと再任の手順

会社役員をしていますが自己破産を検討中です。破産すると会社との委任契約は終了し、役員を辞めなければならないのでしょうか?

個人の借金が増えすぎてしまい、自己破産を考えています。現在は中小企業の取締役(平役員)を務めていますが、破産することで役員の地位を自動的に失うのか、あるいは会社に知られずに続けられる方法があるのかを知りたいです。

もし一度辞める必要がある場合、すぐに再就任することは法律上可能なのでしょうか。会社への影響を最小限に抑えつつ、生活を立て直すための手順とタイミングについて教えてください。

破産手続開始決定によって会社との委任契約は終了しますが、欠格事由ではないため株主総会での再選任は可能です。

会社役員が自己破産を行うと、民法の規定により会社との委任関係は終了し、一度退任することになります。しかし、現在の会社法では破産者は取締役の欠格事由ではないため、株主総会で改めて選任されれば、直ちに取締役として復帰することが可能です。

ただし、退任と再任の手続きには登記が必要となり、会社や他の役員に事情を説明せざるを得ない場面が多くなります。会社への影響を抑えつつ自身の債務整理を進めるには、破産申立てのタイミングと辞任・再任のスケジュールを慎重に設計する必要があります。

この記事では、会社役員特有の破産手続きの流れ、委任契約終了の法的仕組み、そして再任に向けた具体的な手順について解説します。

この記事でわかること

会社役員の破産と委任契約の終了ルール

会社役員(取締役、監査役など)と会社との関係は、雇用契約ではなく「委任契約」によって成り立っています。この委任契約が自己破産によってどのような影響を受けるのか、まずは法的な基本ルールと地位喪失の仕組みについて整理します。

破産手続開始決定による委任の終了(民法653条)

民法第653条では、委任の終了事由の一つとして「受任者が破産手続開始の決定を受けたこと」を定めています。会社と役員の間には委任契約があるため、役員個人が裁判所から破産手続開始決定を受けると、その瞬間に会社との委任契約は法律上終了します。

これは本人の意思や会社の意向にかかわらず発生する法的効果です。たとえ社長が「君には続けてほしい」と言ったとしても、一度は「退任」という形をとらなければなりません。この退任処理を行わずに役員としての業務を継続した場合、後からその行為の有効性が問われたり、背任などの法的責任を追求されたりするリスクが生じます。

取締役の欠格事由からの除外(会社法改正の影響)

かつての商法では、破産者は取締役の欠格事由(取締役になれない条件)に含まれていました。そのため、自己破産をすると役員を辞めなければならず、復権(破産者でなくなること)を得るまでは再就任もできませんでした。

しかし、平成18年に施行された現在の会社法では、破産者は取締役の欠格事由から除外されています。つまり、法律上は「破産手続き中であっても取締役になること」自体は禁止されていません。この変更により、「破産開始決定で一度退任にはなるが、すぐに再選任すれば役員に戻れる」という運用が可能になりました。

旧商法時代 破産者は取締役になれない(欠格事由)。復権するまで役員復帰は不可能。
現行会社法 破産開始決定で委任契約は終了し退任となる。ただし欠格事由ではないため、直後の再選任は可能。

監査役や執行役の場合の扱い

取締役だけでなく、監査役や会計参与などの役員も会社との関係は委任契約に基づいています。したがって、これらの役職にある人が自己破産をした場合も、同様に委任契約が終了し、退任することになります。再選任が可能である点も取締役と同様です。

一方で、単なる「執行役員(従業員兼務など)」で、登記上の役員ではない場合は、会社との関係は雇用契約(労働契約)であることが一般的です。雇用契約の場合、破産は退職事由にはなりません。就業規則に「破産した者は解雇する」といった規定があったとしても、不当解雇として無効になる可能性が高いでしょう。ご自身の立場が「登記された役員(取締役など)」なのか、「従業員としての役職者(執行役員、部長など)」なのかを明確に区別して考える必要があります。

破産後も役員を続けるための再任手続き

「破産しても役員を続けたい」という場合、一度終了した委任契約を再度結び直す手続きが必要です。自動的に継続されるわけではないため、会社側で正式な機関決定を経る必要があります。

株主総会での再選任決議

役員を再任するためには、株主総会での決議が必要です。臨時株主総会を開催し、破産により退任した役員を再び取締役に選任する議案を可決しなければなりません。

このプロセスにおいて、株主に対して「なぜ一度退任したのか(=破産したこと)」を説明するかどうかが問題となります。中小企業などの同族会社で、自分自身や親族が株主の大半を占めている場合は、事情を理解した上でスムーズに再任決議を行えるでしょう。しかし、外部の株主がいる場合や、自分が雇われ役員である場合は、破産の事実を隠したまま再任決議を通すことは実質的に困難です。

就任承諾と登記申請のタイムラグ

再選任された後は、本人が改めて「就任承諾」を行うことで、新しい委任契約が成立します。実務上は、破産手続開始決定による「退任」の登記と、再選任による「就任」の登記を同時に申請することも可能です(同日付けでの重任のような形式ではなく、一度退任して就任する形になります)。

ただし、登記簿(履歴事項全部証明書)には、「〇年〇月〇日 退任」「〇年〇月〇日 就任」という記録が残ります。「破産により退任」と直接記載されるわけではありませんが、任期満了時期と異なるタイミングでの退任・就任の記録は、金融機関や取引先が詳細な審査を行った際に「何かあったのか」と推測される材料にはなり得ます。

官報公告と資格制限の確認

会社役員としての地位は会社法上守られていますが、役員が保有している「その他の国家資格」や「許認可」については注意が必要です。例えば、警備業の役員、建設業の経営業務の管理責任者、宅地建物取引士などの資格が必要な役職についている場合、それらの業法で「破産者」が欠格事由とされていることがあります。

この場合、会社法上は役員になれても、業法上その業務に就けなかったり、会社の許認可自体に影響が出たりする恐れがあります。ご自身が会社の許認可要件に関わる重要なポジションにいる場合は、破産申立て前に必ず代替の人材を確保するなどの対策を講じなければなりません。

会社にバレずに破産手続きを進める難易度

会社役員という立場で、「会社に知られずにこっそり破産したい」と考える方も多いですが、一般の会社員に比べてそのハードルは極めて高いのが現実です。なぜバレる可能性が高いのか、具体的なリスク要因を洗い出します。

破産管財事件になる可能性が高い

個人の自己破産には、手続きが簡易な「同時廃止」と、管財人が選任される「管財事件」の2種類があります。会社役員の破産は、資産調査や株式の評価、会社との金銭のやり取り(貸付・仮払金など)の有無を厳密に調査する必要があるため、ほぼ確実に「管財事件」となります。

管財事件になると、裁判所から選任された破産管財人が、財産や収入に関する詳細な調査を行います。その過程で、退職金見込額証明書の提出を求められたり、役員報酬の明細だけでなく規定の確認を求められたりすることがあり、経理担当者などに不審に思われる機会が増えます。

官報への掲載と情報業者

自己破産をすると、国が発行する「官報」に住所と氏名が掲載されます。一般の人が官報を毎日チェックすることは稀ですが、金融機関や信用調査会社、一部の不動産業者は定期的にチェックしています。また、勤務先の会社が取引先の与信管理のために信用調査データを導入している場合、役員の破産情報がアラートとして通知される可能性もゼロではありません。

会社への通知義務はないが説明は不可避

破産すること自体を会社に通知する法的義務はありません。しかし、前述の通り「破産開始決定=委任契約終了(退任)」となるため、退任の手続きをとるために事実を伝えざるを得なくなります。もし破産開始決定が出たことを隠して役員を続けた場合、その期間の役員報酬の返還を求められたり、決議の無効を訴えられたりする重大なリスクを抱えることになります。

現実的な解として、役員としての地位を維持したいのであれば、会社(少なくとも代表者や決定権を持つ株主)には正直に打ち明け、協力を仰ぐほかありません。

代表取締役が破産する場合の連鎖リスクと対応

平取締役ではなく、会社の代表者(代表取締役)が個人的に破産する場合、会社経営そのものに与える影響は甚大です。特に中小企業では、個人の破産が会社の倒産に直結するケースが多いため、慎重な判断が求められます。

会社の債務を個人保証している場合(経営者保証)

中小企業の代表取締役は、会社の銀行借入やリース契約について「連帯保証人」になっていることが一般的です。この場合、代表者個人が自己破産して保証債務を免れようとすると、銀行は「主債務者である会社」に対して一括返済を求めることになります(期限の利益の喪失)。

会社に一括返済できるだけの資金があれば問題ありませんが、通常は資金繰りに行き詰まり、会社も連鎖して破産せざるを得なくなります。これが「代表者の破産=会社の終わり」と言われる理由です。

経営者保証ガイドラインの活用

近年では、「経営者保証に関するガイドライン」の運用が進んでおり、一定要件を満たせば、経営者個人の破産を回避しつつ保証債務を整理できる可能性があります。また、会社が黒字で存続可能であれば、事業承継やM&Aによって第三者に経営を譲り、旧代表者のみが債務整理を行う道も模索できます。

ただし、これらは高度な専門知識を要する手続きです。単なる個人の自己破産として処理するのではなく、法人債務の整理を含めた全体最適を考える必要があります。

代表取締役のみの交代と事業継続

会社の連帯保証をしていない場合、あるいは保証債務があっても会社が返済を継続できる体力がある場合は、代表者を交代することで会社を存続させられます。

  • 事前に臨時株主総会を開き、代表取締役を辞任する。
  • 後任の代表取締役を選任し、登記を変更する。
  • その後、元代表者個人として自己破産を申し立てる。

この手順を踏むことで、代表者の個人的な破産が会社の登記簿や取引先に直接的な衝撃を与えるのを防ぐことができます。ただし、実質的経営者が変わっていないとみなされると、銀行との取引継続が難しくなる場合もあります。

役員報酬・退職金・自社株の取り扱い

会社役員の破産手続き(管財事件)では、役員特有の資産が処分の対象となります。生活を守るために何が手元に残せるのか、何が没収されるのかを確認しておきましょう。

役員報酬の差押えと管理

破産手続き中も役員として働き続ける場合、役員報酬を受け取ることができます。しかし、破産手続開始決定後は、管財人が財産管理を行うため、一定額を超える現金や預金は債権者への配当に回されます。

また、自己破産に至る前に債権者から給与(報酬)の差押えを受けた場合、会社(第三債務者)に差押命令が届きます。これにより会社に借金問題がバレるだけでなく、会社側も供託などの事務手続きを強いられることになります。

退職金の扱い

会社に役員退職慰労金規程がある場合、将来受け取る予定の退職金も「財産」とみなされます。まだ退職していなくても、現在自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1相当額などを、破産財団(債権者に配るお金)に組み入れるよう求められることがあります。

現金を管財人に支払うことで退職金の権利を守る(自由財産の拡張)ことも可能ですが、そのための現金を用意できなければ、退職金請求権を放棄する形になることもあります。

保有している自社株の処分

自社の株式を保有している場合、その株式も資産として評価されます。上場企業であれば市場価格で売却されますが、非上場の同族企業の場合、管財人が株式を売却して現金化を図ることになります。

株式が第三者に渡ると会社の経営権を脅かされるため、通常は会社自身や他の役員・親族が管財人から適正価格で買い戻す交渉を行います。このプロセスでも、会社や親族に事情を説明し、資金を用意してもらう必要があります。

混乱を防ぐための辞任と弁護士依頼のスケジュール

ここまで見てきた通り、会社役員の破産は「いきなり申し立て」をすると周囲への影響が大きすぎます。会社へのダメージを最小限にし、自身の再起を図るための理想的なスケジュールは以下のようになります。

STEP1:弁護士への相談と方針決定

まずは弁護士に相談し、「個人の破産だけで済むか」「会社の保証債務はどうなっているか」を精査します。この段階ではまだ会社に伝える必要はありませんが、会社の登記簿謄本、定款、自身の確定申告書、役員報酬明細などの資料が必要です。

STEP2:事前の辞任と登記(推奨)

破産申立てを行う「前」に、自らの意思で役員を辞任する手順です。

  1. 弁護士に依頼(受任通知送付)する直前、あるいは準備期間中に、会社へ辞任届を提出する。
  2. 辞任理由は「一身上の都合」とする(詳細を伏せる場合)。
  3. 会社側で辞任の登記を行う。

先に辞任しておくことで、「現職の役員が破産した」という事態を回避できます。元役員が破産しただけであれば、会社との委任契約は既に終了しているため、法的な混乱(自動退任の手続き漏れなど)を防げます。再任を予定していない場合は、この方法が最もクリーンです。

STEP3:受任通知の送付と申立て

辞任処理が完了した後、あるいは会社側の理解を得て準備が整った段階で、弁護士から債権者に受任通知を送ります。これにより督促が止まります。その後、裁判所に破産申立てを行います。

STEP4:再任のタイミング(復帰する場合)

どうしても役員に戻る必要がある場合は、破産手続開始決定が出た後、しかるべき時期に株主総会を開き、再選任を行います。ただし、破産手続き中は管財人との面談や債権者集会への出席などがあり、多忙となります。精神的にも落ち着き、免責許可決定(借金の免除)が見えてきた段階での復帰を目指すのが現実的でしょう。

注意:名義貸し役員の場合
名前だけの役員で実質的な経営に関与していない場合でも、登記されている以上は法律上の責任を負います。「自分は関係ない」と思って放置すると、会社の税金や社会保険料の第二次納税義務を負わされたり、損害賠償請求を受けたりすることがあります。名義貸しの状態を解消するためにも、今回の破産を機に正式に辞任・登記抹消を行うことを強く推奨します。

まとめ

会社役員が自己破産をすると、会社との委任契約は終了し、法律上一度は退任することになります。欠格事由ではないため再選任は可能ですが、登記手続きや管財事件への対応、会社バレのリスクなど、一般の会社員にはない複雑なハードルが存在します。

会社に迷惑をかけずに処理するためには、「破産申立て前の辞任」や「経営者保証の整理」など、戦略的な準備が不可欠です。個人の借金問題だけで完結しないケースが多いため、法人破産や企業法務に詳しい専門家のサポートを受けることが重要です。

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日本リーガル司法書士事務所の代表司法書士 計良宏之

日本リーガル司法書士事務所

監修者:代表司法書士 計良 宏之

東京都荒川区東日暮里5-17-7 秋山ビル1階

東京司法書士会所属 第8484号
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員 第1201114号

借金問題・債務整理に関する情報を、できるだけわかりやすく整理してお伝えしています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。状況により最適な対応は変わるため、不安が強い場合は早めに専門家へ相談してください。

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