物納(ぶつのう)とは?

物納とは、相続税を現金で納めることが困難な場合に、相続した不動産や有価証券などの財産を国に納めることで、相続税の支払いに充てることができる制度です。物納制度を利用することで、資産を売却する必要がなく、納税義務を果たすことができます。

物納は原則として現金納付が困難であると認められる場合の「例外的な納税方法」として位置づけられています。国税庁への申請と審査が必要となる特別な手続きです。

物納制度の基本

物納制度は、相続税法第41条に基づいて定められている制度です。相続税の納税が現金では困難な場合に限り、相続または遺贈により取得した財産で納税できる例外的な制度として設けられています。

物納が認められると、実際に納めた財産の価額に相当する相続税額が納付されたものとみなされます。この制度により、納税のために急いで不動産などを売却する必要がなくなり、相続人の経済的負担を軽減することができます。

物納制度の目的 相続税の納税が困難な相続人の救済と、国税の確実な徴収の両立を図ること
制度の位置づけ
  • 原則は「現金納付」
  • 次に「延納(分割払い)」
  • 最後の手段として「物納」

この表は物納制度の基本的な位置づけを示しています。相続税の納付方法は、原則として現金納付が第一選択肢となりますが、それが困難な場合には延納(分割払い)、さらに延納も困難な場合に物納が検討されます。

物納が認められる要件

物納は誰でも自由に選択できる納税方法ではなく、一定の要件を満たさなければ認められません。物納申請が許可されるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 相続税の金額が10万円を超えていること
  • 相続税を金銭で納付することが困難な事由があること
  • 物納に充てようとする財産が、相続または遺贈により取得した財産であること
  • 物納に充てようとする財産が、物納適格財産であること
  • 申請期限までに物納申請書と必要書類を提出すること

上記の要件のうち、特に「金銭納付が困難な事由」については税務署による厳格な審査があります。単に「現金を持っていない」だけでは不十分で、資産状況や収入状況を総合的に判断されます。

金銭納付困難と認められる事由の例

資金不足の状況 納付すべき相続税額が、相続人が所有する現金・預貯金等の金額を超えている
換金困難な状況
  • 相続財産を売却しようとしても買い手がつかない
  • 売却すると事業の継続が困難になる
  • 適正な価格での売却が著しく困難である
借入困難な状況 金融機関等からの借入れが困難であることを証明できる

この表は、金銭納付が困難と認められる一般的な事由を示しています。物納を申請する際には、これらの事由に該当することを客観的に証明する資料の提出が求められます。

物納できる財産の種類と順位

物納に充てることができる財産は、相続または遺贈により取得した財産に限られます。さらに、物納財産には法律で定められた優先順位があり、原則としてこの順位に従って物納申請をする必要があります。

  1. 第1順位:国債、地方債、不動産、船舶、国税徴収法第6条に規定する動産
  2. 第2順位:社債、株式、証券投資信託または貸付信託の受益証券、貸付金債権
  3. 第3順位:第1順位・第2順位以外の財産で、管理処分不適格財産でないもの

これは物納に充てることができる財産の法定順位を示しています。第1順位の財産がある場合は、原則としてそれを優先して物納に充てる必要があります。下位順位の財産を物納するためには、上位順位の財産では納税額に満たないか、上位順位の財産による物納が困難である特別な事情が必要です。

管理処分不適格財産について

すべての財産が物納に適しているわけではありません。以下のような「管理処分不適格財産」は物納が認められません。

物的な不適格事由
  • 境界が明確でない土地
  • 建築基準法に適合しない建物
  • 環境汚染のある土地
  • 権利関係が複雑で紛争の恐れがある財産
法的な不適格事由
  • 共有持分が極めて小さい財産
  • 担保権が設定されている財産
  • 賃借権等の使用収益権が設定されている財産
  • 処分の制限がある財産

この表は物納が認められない代表的な管理処分不適格財産の例を示しています。これらの財産は国が管理・処分するのに適さないと判断されるため、物納申請が却下される可能性が高いです。

物納の申請手続きの流れ

物納を希望する場合は、一定の期限内に所定の手続きを行う必要があります。物納申請から許可までの基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 相続税の申告:相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告を行う
  2. 物納申請書の提出:相続税の納付期限(申告期限)までに物納申請書と必要書類を税務署に提出
  3. 審査:税務署による物納要件の審査と物納財産の価額評価、現地調査等が行われる
  4. 物納許可または却下:審査結果に基づき、物納の許可または却下の決定が通知される
  5. 物納手続き:許可の場合、指定された期日までに財産の引渡し等の手続きを完了させる

これは物納申請から完了までの基本的な流れを示しています。物納申請の審査には数ヶ月から1年以上かかることもあり、その間の延滞税も発生するため、早めの準備と申請が重要です。

物納申請時の必要書類

基本的な必要書類
  • 物納申請書(国税庁指定の様式)
  • 物納手続きに関する委任状(代理人が手続きを行う場合)
  • 金銭納付が困難であることを証明する書類
  • 物納財産の明細書
物納財産の種類別の
追加書類
  • 不動産:登記事項証明書、固定資産評価証明書、賃貸借契約書の写し等
  • 有価証券:株券や証券等のコピー、評価に関する資料
  • その他の財産:財産の所在・状況がわかる資料

この表は物納申請時に必要となる一般的な書類をまとめたものです。物納財産の種類によって必要書類は異なるため、事前に税務署に確認することをおすすめします。

物納のメリット・デメリット

物納制度には相続人にとって様々なメリットとデメリットがあります。物納を検討する際は、これらを十分に理解した上で判断することが重要です。

物納のメリット

  • 現金を用意する必要がなく、資産の売却を強いられない
  • 不動産市場が低迷している時期に無理に売却する必要がない
  • 物納財産の評価額で相続税が納付されたとみなされる
  • 物納に伴う譲渡所得税が課税されない
  • 相続した財産の管理負担から解放される

上記は物納のおもなメリットです。特に不動産などの換金が難しい財産を相続した場合に、無理な売却や借入れをせずに納税義務を果たせる点が大きな利点となります。

物納のデメリット

  • 申請から許可までに長期間を要し、その間の延滞税が発生する
  • 審査が厳格で、申請が却下されるリスクがある
  • 物納財産の評価が相続税評価額より低くなることがある
  • 多くの書類準備や手続きが必要で手間とコストがかかる
  • 一度物納した財産は取り戻せない

これらは物納の代表的なデメリットです。特に申請期間中の延滞税の発生や、審査の厳格さによる却下リスクは重要な検討ポイントとなります。

物納の注意点と対策

物納を検討する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを事前に把握し、適切な対策を取ることで、物納手続きをスムーズに進めることができます。

物納の主な注意点

延滞税の発生 物納申請中も法定納期限から物納財産の収納までの期間は延滞税が発生します。審査期間が長引くほど延滞税負担が増加します。
維持管理責任 物納申請中も財産の所有者は相続人であり、適切な維持管理を行う必要があります。管理を怠ると物納不適格と判断されるリスクがあります。
評価額の変動 物納申請時と実際の収納時で財産評価に差が生じる場合があります。特に不動産は市場価格の変動の影響を受けやすいです。
部分的な物納 相続税額の全部を物納する必要はなく、一部を現金納付または延納とし、残りを物納することも可能です。

この表は物納に関する主な注意点をまとめたものです。特に延滞税の発生と財産の維持管理責任は、物納申請中の大きな負担となるため、十分に考慮する必要があります。

物納を成功させるための対策

  1. 早期の専門家相談:物納を検討したら、できるだけ早く税理士や司法書士などの専門家に相談する
  2. 物納適格性の事前確認:物納予定の財産が適格財産かどうかを事前に確認する
  3. 必要書類の早期準備:物納申請に必要な書類を早めに収集・準備する
  4. 財産の適切な維持管理:物納申請中も財産の価値が損なわれないよう適切に維持管理する
  5. 延納との併用検討:一部延納と一部物納の組み合わせなど、最適な納税方法を検討する

これらは物納を成功させるための対策です。物納は複雑な手続きを要するため、早期から専門家のサポートを受けながら計画的に進めることが重要です。

よくある質問

Q1. 相続した不動産に住宅ローンが残っている場合でも物納できますか?

原則として、住宅ローンなどの抵当権が設定されている不動産は物納不適格財産となります。物納するためには、事前にローンを完済して抵当権を抹消しておく必要があります。ただし、特定の要件を満たす場合には、例外的に物納が認められることもあります。

Q2. 物納申請中に延滞税はどのくらい発生しますか?

物納申請中でも、法定納期限(相続開始から10ヶ月)から物納財産が収納されるまでの期間について延滞税が発生します。延滞税の割合は年間約8.8%(2023年現在、変動あり)で、申請から収納までに1年以上かかることも珍しくないため、相当な金額になる可能性があります。

Q3. 物納と延納を併用することはできますか?

はい、物納と延納を併用することは可能です。たとえば、相続税の一部を延納(分割払い)で納付し、残りの部分を物納で納付するといった方法を取ることができます。相続財産の構成や現金の手元状況に応じて、最適な組み合わせを検討することをおすすめします。

Q4. 物納申請が却下されるケースはどのようなものがありますか?

物納申請が却下される主なケースには、「金銭納付が困難とは認められない」「物納しようとする財産が管理処分不適格財産である」「申請書類に不備がある」「物納財産の価額が納付すべき相続税額に満たない」などがあります。却下リスクを減らすためにも、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

Q5. 物納した不動産を後から買い戻すことはできますか?

一度物納された財産を相続人が優先的に買い戻す制度はありません。物納された財産は国有財産となり、通常は一般競争入札などの方法で売却されます。もし買い戻したい場合は、一般の方と同じ条件で入札に参加する必要があります。物納を決断する前に、この点をよく理解しておくことが重要です。

まとめ

物納は、相続税を現金で納付することが困難な場合に、相続または遺贈により取得した財産で納税できる制度です。現金納付が原則である相続税において、最後の手段として用意されている例外的な納税方法といえます。

物納を利用するためには、「金銭納付が困難である」という要件を満たし、物納適格財産を所有している必要があります。また、物納財産には法定順位があり、第1順位の国債・地方債・不動産などから優先的に物納に充てなければなりません。

物納のメリットとしては、無理な資産売却を避けられることや、資産管理の負担から解放されることなどが挙げられます。一方で、申請から許可までの期間が長く延滞税が発生すること、厳格な審査があり却下されるリスクがあることなどのデメリットも存在します。

物納を検討する際は、税理士や司法書士などの専門家に早期に相談し、適切なアドバイスを受けながら計画的に手続きを進めることが重要です。また、延納(分割払い)との併用など、自身の状況に最適な納税方法を総合的に検討することをおすすめします。

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